消費者を主人公にした「魔法の杖」。SNSが変えた暮らしとプロモーション活用へのヒント

コト消費の主役は「体験消費」。これによって人は消費者から主人公になる。昨今話題の新種の体験価値を創出するアミューズメントパークはもちろん、コンテンツ視聴後のSNS上での考察など、あらゆる場面で体験が求められている。主人公たる人々に対しては「ここに行けばこんな自分になれるかも」といった「体験妄想」をいかにかき立てるか、がマーケターの腕の見せどころとなってくるだろう。

SNSが登場した頃、そのパワーに過剰な期待をする広告主を諫めるべく様々なSNS関連書籍が「SNSは魔法の杖ではない」と口を揃えて警告した。たしかにSNSはプロモーションの魔法の杖ではなかったが、別の意味では「魔法の杖」だった。それは消費者に創造的な表現の場を与えることで、人生という物語の主人公に変えたこと。消えものの消費に伴う虚しさを「工夫を残して積み上げる」公共スペース(=SNS)の設置で解決したのだ。日々の家事の創意工夫の素晴らしさが可視化され、さらに創発的に新たな家事テクが生まれた。

「魔法の杖」から生まれる新たな日常

TIME誌がパーソンオブザイヤーに「YOU」を選んだのが2006年。特殊な反射材の表紙に読者の顔が映るギミックと合わせて話題となった。2006年は、前年生まれたYouTubeが話題となり、Googleに買収された年だ。その後も様々なSNSが生まれ、一人ひとりがメディアとなった(結果、メディアの特権的地位は失われた)。本当の意味での言論の民主化が実現した今、粛々とやりたいことをやり続ける人は無敵である。

レシピサイトのソーシャル性

実はクリエイティブな行為なのに、毎日のことなので憂鬱になりがちな料理。それをアイデアでラクに楽しくしてくれるのがレシピサイトだ。その代表格であるクックパッドは単なるレシピ共有サイトではなく「つくレポ」等の機能を通してソーシャル性も担保している。これにより考案者には手応えや感想がフィードバックされ、ユーザーは他の人の出来栄えや盛り付けの工夫、家族のリアクションなどを参考にできる。人は人に興味がある、という本質がエンジンになっている。

SNSのアイデアをまとめたキュレーションメディアの台頭

様々な人のアイデアに触れられるSNSだが、パーソナルメディアであるためにどうしても情報が分散してしまう。SNS上に溢れる暮らしのアイデアの断片をまとめてコンテンツ化したら便利なんじゃない?(ついでにSEOにも強そうだし)・・というので活発になったのがライフスタイル系のキュレーションメディア。ここからプチDIYや収納テクブームが起き、ダイソーやSeria、3COINSなどプチプラ小物ショップが一気に充実した感がある。

私もこの頃に、12年間のやさぐれた広告代理店生活に終止符を打ち、ライフスタイルメディアの編集部に入った。コンテンツ制作を通して改めて思ったが、暮らしの中のヒラメキって、毎日ワクワクできるから素晴らしい。つい先日も、人間の手が届かないところでも、菌なら届く。ということでNEXCO中日本が納豆菌や乳酸菌でパイプや浄化槽の尿石&ぬめりとり&消臭をして臭気強度を2,000→500に低減させたという記事をみて、納豆&ヨーグルトの容器も皿洗いの最後に洗って流すようにした(ChatGPTに自慢したところ、粘性のものはつまりの原因になるとたしなめられた)。

暮らしのアイデア溢れるキュレーション系のWebマガジンは、既存のメディア文脈とは読者のモードが若干異なる。広告主に対しても、まずはそこを説明すべきなのだが、幅広いメディアを売り分ける代理店経験のない媒体営業にはなかなかできるものではない。そこで私は、雑誌広告との違いを「KnowではなくDoモードの読者に訴求できる」と定義し説明するようにした。今日の買い物ついでに買って、即実行して暮らしをワンランクアップさせる、そんなアイデアとTipsをスマホから得るという習慣。だから「買い」に近いのだ。

SNSをプロモーションの「魔法の杖」にするには

SNS上でのインフルエンサー活用も定着したが、商品持ってニコパチばかりではリーチはとれてもその先のブランドリフトにはつながらない。フォロワーも愛のない#PR投稿には辟易している。ここにもアイデアが必要だ。通り一遍の◯◯アンバサダーとかじゃなくて、プロダクトまわりに◯◯論壇を形成するとか、親目線でアレコレ心配する◯◯PTAとか、建て付け自体をチャーミングにした方が盛り上がるだろう。

SNSで話題化するには誰もが語りたくなるテーマ設定が必要だが、そのインサイトのヒントはSNS上に転がっている。だから、プロモーションを仕掛ける側自体がSNSヘビーユーザーである必要がある。また#は以前はアーカイブ目的であったが、現在は#この髪どうしてダメですか のように会話を生むきっかけとして使われ出している。

思わず論戦に参加したくなるイシューを提示すると話題化し、確認消費的にまず最初の一本を買ってもらえる。ユーザー参加型のSNS投稿キャンペーンは企画の建て付けにわかりやすい「構造」が必要だが、たとえば「アサヒ颯」は微発酵茶葉による独特な香りや味わいによる「賛否両論」をフックにしている。意見の対立構造とすることでわかりやすく、そして自然に盛り上がる設計。普通は「味」が争点となるのに、「これは緑茶か否か」と絶妙に論点をズラしているところもいいさじ加減だ。CMやウェブも投票形式で一貫性を確保させている。

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