魅せる保存食「サヴァ缶」や「ワークマン女子」に学ぶ。売り場のモンタージュでブランドのイメチェンを

体験消費の時代、売り場のモンタージュは熱い。モンタージュとは視点の異なる複数の映像を組み合わせることで受け手の解釈の中に新しい意味を生む映像の表現手法。これは売り場の棚戦略でも応用できる。たとえば、パン屋でバスケットを売ればそのまま爆買いしてピクニックに出かける人もたまに出るだろうし、アップルストアで高級リンゴ売るのもわかりやすい。

しかし、そういうストレートな発想よりも、オシャレ雑貨店で米や餅を売るとかKALDIで工具売るなど「裏切り」を入れた方がモノの文脈が拡がる。そのブランドの文脈とは違う「意外な」文脈の棚に置くことで新たな意味が発生し、パッケージやネーミングを変えなくてもブランドリフレッシュを図ることができるのだ。

売り場のモンタージュが、プロダクトの認識をパッと変えるのに有効な理由。それは、人の脳は固有名詞(ポチ)より一般名詞(イヌ)の方が覚えやすいという特性を持つから。つまりカテゴリ認知を揺さぶると、パーセプションの更新を促しやすいのだ。ヤクザの中にJK(薬師丸ひろ子)が君臨するから「セーラー服と機関銃」はヒットしたのだ。

売り場のモンタージュで意味を拡げた実例

事例①:アパレル棚でサバ缶を売る

ひと捻りある販路の獲得は、それ自体が商品の顔つきを創り出すことがある。たとえば東日本大震災発生の3カ月後に立ち上げられた東の食の会の商品「Ça va?缶=洋風サヴァ缶」。

食品棚だけでなくアパレル棚にも販路を取ることでこれまでの「サバ缶観」の更新を図り、震災以後の防災意識に対するお洒落な「魅せる保存食」としてのポジショニングを獲得。少し高くても買われる商品になった。

画像出典:サバ缶がアパレルショップに陳列される? 累計販売数1000万缶の売り場戦略

事例②:牛乳石鹸の赤箱を中川政七商店で売る(というか、展示する)

売り場のモンタージュで絶妙なのは牛乳石鹸の赤箱を中川政七商店で売る(むしろ展示する)こと。古きよき新しいものを売る場所に、古きよき誰もが知ってるモノを置く。すると一瞬でブランド鮮度が上がる。同時にロゴ刺繍のリネンハンカチやかや織ボディタオル等のコラボ商品展開でブランドを拡張させる。

事例③:作業服屋で女性アパレルを売る

作業服屋で女性アパレルを売る「ワークマン女子」もすっかりメジャーになったが、これもある種の売り場のモンタージュ。男性8割の作業服屋で売るのはたしかに意外だが、しかし同時に機能性への期待が喚起される。

ワークマン女子の一番のユーザーでもあるサリー氏を商品開発兼アンバサダー、そして社外取締役に抜擢するという徹底した使い手目線。さらにDIYやキャンプブームに乗っかれたこともあり、一気に店舗拡大に成功した。

ワークマン女子の逆転版でいえば、百貨店一階の化粧品売り場でメンズコスメ売るとかはありそう。これまで男性にとって「よく通るのに全く無縁」だったフロアに初めて接点ができることで、時代の変わり目を体感できる(やるかどうかはさておき)。阪急メンズ大阪にはメンズビューティフロアがある模様だ。

事例④:町の電器屋さんをカフェスペースに

古くからある「町の電器屋さん」は接点がない層には謎の(怪しい)店。パナソニックが始めたクラシンクはカフェに家電サブスクと料理教室を合わせた体験型店舗。これまで接点のなかった若年層を取り込み、月の来店は50→250人に増加。料理教室は調理家電の購買客向けでLTV最大化を目的に有料で実施。

町の電器屋さんをカフェ&サブスクにするのも確かに取り組み的には面白いが、何でもかんでもカフェ&サブスクってのも思考停止的でお腹いっぱい感。もう少し家電の特性に寄せて自作アイスクリームやスムージーが作れる店とか、BALMUDAのサラマンダー専門店とか、体験型ならハンドブレンダーの裏技専門店とかの方が話題化しそう。

ハンドブレンダーや塩麹など魔法系の家事グッズは各社コラボして「魔法学校」をつくるといいと思う。なんか裏技が学べて家事が広がりそうだし、なにより楽しそう。活用術を学んでいくうちに購買につながるし、既存ユーザーも使い方をより深く知ることで付属アイテムや2台目、3台目とLTVアップが図れる。

100年モノの表現手法としての「モンタージュ」

100年前に映画を変えたモンタージュは今や映像の基本。合間合間に暗転して台詞が入る無声映画は画面も説明的になりがちだったが、寄りカットをテンポ良く組み合わせることで説明不要で意味が溢れ出した。旧ソ連セルゲイ・エイゼンシュテイン監督が1925年に撮った「戦艦ポチョムキン」の『オデッサの階段』と呼ばれる世界で一番有名で模倣されたシーンが端緒だといわれる。

槇原敬之の「モンタージュ」は友達の買い物に付き合って入った服屋さんで一目惚れして(耳の音が赤くなる音を聞こえるほどに)でもどんな顔だったか思い出せずに(使い方のわからないカメラで撮ったピンぼけ写真)記憶の断片のシーンを何度も再生しながら電車で2駅の彼女の顔を思い出そうとするお話。

既存の要素をチマチマ組み合わせた企画はつまらない。表現手法自体を創るのが一番クリエイティブ。

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アパレル店にサバ缶を置いたり、中川政七商店に牛乳石鹸の赤箱を置いたり、はたまた作業服屋で女性アパレルを売ったり。単なる販…

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