新種の体験価値を発見せよ。インサイト埋め込み型のプロダクト開発最前線を考える

戦後~70年代あたりまで、まだモノが希少だった頃は機能価値をそのまま訴求すれば売れた。やがてモノが飽和してくると、広告の売り文句によって差別化を図る必要性が生まれ、気づきや驚きを促すコピー表現技術が発達した(ex.不思議、大好き。:1981年)。

近年になりマーケティングが高度に進化してくると、生活者インサイトを内包したプロダクト開発が進むようになった。そうなるとモノ自体に気づきや驚きが内包されてくるので、一周回ってコピーはストレートにそのまま訴求すればよくなってくる(ex.ユニクロのフリース1900円:2001年)。

マーケティングで「体験価値」を再定義・再設計し続ける

「マーケティング」と一言でいっても、既存の(いわゆるマーコム的な)出来上がったものの価値をターゲットに対して的確に伝えるものもあれば、さらに根っこの商品・サービス開発段階から関わりプロダクト自体にユーザーニーズを纏わせる役割まで領域は拡がっている。マーケティング支援会社のトップランナーとして、日本のテーマパークを再定義し続ける刀の仕事はプロダクト設計それ自体である。

プロダクト自体が秀逸であれば、それは情報価値も帯びているので広告を打たずとも勝手にメディアや体験者が広めてくれる。また、刀の場合は代表の森岡毅氏の注目度が高いので手がける案件のテレビ取材も殺到する。ガイアの夜明けなどいくつかのビジネス番組では1時間まるまる立ち上げに密着する特集が組まれることもあり、このパブリシティ効果だけでフィーの何割か(あるいはすべて)は回収できているだろう。

続々と生まれる新種の体験価値

アートも広告もエンタメも「テック×体験」による新たな強度を持つ感情の揺さぶりに流れが向いている。まさに「没入」を冠するイマーシブフォートや一連のチームラボの各施設はその代表例。前者はこれまでは観客をカートに乗せて絶叫させる「ブン回し型」の体験設計一辺倒だったものを、リアルタイムの演劇を間近で体験させる「巻き込み型」に変換している。後者はデジタルテクノロジーを通して大自然をダイナミックかつインタラクティブに捉えなおす体験を創出している。

体験価値の次元を変えることで、抜きつ抜かれつのミクロで不毛な差別化戦争から脱却できる。テーマパークでいえばこれまでの乗り物=消費型アトラクションから、参加&没入する体験型への次元シフト。まったくの未開拓領域なので、プロダクト開発者のマーケセンスが問われまくる。森岡氏のゲームのやり込みは有名だが、この領域の仕事を担うには「過剰」な体験価値の知見と思考の蓄積(=修行)が必要となってくる。

「新種」を生む力=ブルーオーシャン

「新種の体験価値」という自社にしかできないクリエイティブ領域は、ブルーオーシャン。依頼側も刀のレベル感を深く理解し、体験価値の「次元を上げる」ことを期待して相談するので競合を気にせず、次々と大胆な企画に挑戦できる。

その創造物は次の創作に向けた最強のスポークスマンとなる。わらしべ長者のように、最初の仕事が次の仕事を、それがまた次の仕事を連れてくる。刀の場合、USJの成功➡︎西武園ゆうえんち➡︎ネスタリゾート神戸➡︎現在のジャングリアやイマーシブフォートというポジティブループが連環している。

大胆な体験価値の再定義が進むテーマパークに比べ、広告は基本「枠」に縛られるので、身体まるごと没入させることは難しい。よって基本的にはその中での新しい表現開発に取り組むしかないのだが、接触の「タイミング」や「場所」を工夫することで広告接触を体験価値のレベルに引き上げる工夫・努力はできるだろう。たとえば気温35℃を超えた瞬間にビールの広告を出すなど、モーメントを捉えて感情のスイッチを押す「タイムリーアプローチ」は広告でも可能だ。

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