街をキャンバスにするOOH。ブランド記憶が「点」から「面」に立体化する体験型コミュニケーションの方法

「広く告知する」ことが使命の広告において「あえて潜伏する」「待ち伏せする」ことでメッセージ強度を高められるのはOOH(屋外広告)ならではの醍醐味。ゲリラ戦のように街のあちこちで待ち伏せし、意外なポイントで突如姿を現してメッセージ伝達することでビックリさせ、鮮烈な体験として印象づける。

メディアはメッセージと言われるが、OOH(屋外広告)は掲出場所の文脈自体がメッセージなので単なるリーチ補完やメディアミックスだけで使うのはもったいない。広告を街の様々な場所に散りばめ、それらのメッセージを連動させることで「街全体をキャンバス」にした広告表現やブランド体験が生み出せる。

街全体をキャンバスにして広告メッセージを体験させることで、ブランド記憶が「点」から「面」へと立体化する。個々の広告メッセージの記憶が相互に結び付くことで強化される上に、人間の記憶は場所に紐づくので想起もしやすくなる。

以前の記事『ブランドメッセージの「臨場感」を上げる。OOH(屋外広告)の効果について改めて考える』において、デジタルメディア成熟における今改めてOOHの価値を再検証し、捉えなおしを図ったが、以降は具体事例を踏まえて注目すべき活用法やトレンドについて考察を深めていきたい。

街をキャンバスにするOOH

事例①:森永乳業MOWの「かくれんぼ」広告

OOHは街全体を広告表現のキャンバスにすると、体験型アトラクションへと昇華する。森永乳業MOWは「MOWを独り占めするためにあちこちで隠れて食べる河合優美」を渋谷の街のあちこちに展開。街中でかくれんぼできる体験設計を仕掛けた。見つけたら思わずシェアしたくなるくすぐり要素がてんこ盛りの企画。

MOWのかくれんぼ広告は、難易度にもこだわりがみえる。目線を上げないと見えない場所など注意深く探さないと見つからない渋谷の街の39カ所に掲出されたため、見つけた時のWOW!をロスなくそのままXの拡散の力につなぎ込む仕掛けとして「# MOWとかくれんぼ」キャンペーンも併せて展開させている。

また、このキャンペーンのような人間味をくすぐる表現は、広告においても有効。前向きな感情だけではなく、スネたりからかったりといった屈折した感情もくすぐり要素が強い。独占欲をうまく使ったのが森永乳業MOWの河合優美かくれんぼ広告。「隠れて食べてしまうほどおいしい」という物性をチャーミングに打ち出している。

画像出典:河合優実が渋谷の街でかくれんぼ リアルとデジタルでMOWブランドの想起を狙う

事例②:タイミーの「スキマ」広告

スキマバイトサービスのタイミーは23年11月から、渋谷のさまざまな”スキマ”を彩る街中スキマ広告を展開した。同社のミッション『「はたらく」を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる』を渋谷中の「スキマスペース」をキャンバスとして表現。スキマって意外とあるんだな、という気づきとともに理念を訴求した。

タイミーのスキマ広告実施にあたっては、まずは「スキマ枠」の開拓から着手している。渋谷の街を歩いて絶妙な「スキマスペース」を発見し、地道に一軒ずつ物件オーナーと交渉。広告クリエイティブの前に、「枠」のクリエイティブに手間ヒマをかけることで、メッセージ伝達という目的をダイナミックに果たした。

自らスキマメディアを開発してまで広告表現にこだわったのは、タイミーのビジネスモデルが「カテゴリ創造型」であることに由来する。「スキマバイト」という新しいカテゴリを表現するのに既存のメッセージングでは不十分。「スキマ」を時間から空間に置き換えることで、斬新な価値を可視化している。

昨年、渋谷街中のさまざまな「スキマ」に広告を掲出し「メディアはメッセージである」を体現したタイミー。今年は上場に合わせて「はたらくに”彩り”を。」をスローガンに新聞広告を掲載。併せてOOHでは「まちがい探し」をコンセプトにタイミー登場前後の働き方の30個の「ちがい」を探させる広告を掲出

画像出典:スキマバイトサービス「タイミー」が渋谷の街の“スキマ”を彩る「街中スキマ広告」を11月17日より展開

事例③:ペタグーの「潜伏」広告

まだ見ぬ斬新なコンセプトを理解してもらうためには比喩による橋渡しが必要。“地球にはない食感を味わえる、宇宙で見つけたグミ界の新種”のいうコンセプトで開発されたノーベル製菓のペタグーは「まるで靴底」「食べ頃を逃したミノ」などで食感シズルを表現。潜伏感を出すため渋谷の小枠130箇所に掲出。

「これまで(地球上に)なかった未確認食感」ということを表現するのに、SF的な想像力を援用した「宇宙からのインベーダー(侵略者)」というノーベル製菓・ペタグーのキャラ立ては分かりやすい。それをスキマメディアで伝えることで「潜伏感」を効果的に演出し、思わず食べてみたくさせている。

画像出典:渋谷で“未確認食感ペタグー”を探せ あえて小さいOOHで食感を訴求

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