リモートだからこそ、ココロは密接に。社員のハートをつなぐ「コトバ環境」づくり

リモートの定着と、SlackやZoomなど便利なコミュニケーションツールの整備によって「職場」という概念が更新されつつある。オフィス勤務していても、社内すべてのやりとりが「見える化」されるSlackなどの心理的な影響は大きく、社内チャット空間≒職場空間という認識になる中で、コミュニケーションの質は生産性・創造性の鍵となっている。

様々な企業のSlackに入ると、企業ごとにSlackの温度感・テンションがまったく違うことがわかる。女性が一律に「すん」としているところもあれば、やり取りの絶対量が少ないところもある。一方で管理職が率先してボールを拾い即レスに徹するチームは、メンバーも見習って前向きで活発なやりとりになっていることが多い。

AIによって定型業務は減少し、今後のビジネスパーソンにはより創造性が求められるようになる。メンバーの知的プロセスを結集するための土壌となる、メンバー同士の活発なインタラクションを可能にする「コトバ」を介したコミュニケーション環境の作り方について考察してみたい。

社員のハートをつなぐ「コトバ」環境づくり

リモートワークが定着した今、会社は「場」のつながりから「価値観」のつながりにシフトしている。仕事における夢や規範を共有できてはじめてカンパニー(仲間)になれる。そこで重要度が増しているのが、才能と情熱に溢れた仲間が貴重な人生の一定期間を注げるだけの魅力的なパーパスやビジョンの存在。

パーパスやビジョンは抽象度の高いコトバになりがち。なのだが、どんな良質な米でも炊いて糊化させなければ消化吸収はできないように、高尚なコトバは社員が身体化できない。理想は、社員同士の普段の会話やメッセージのやりとりにLINEスタンプのように自然に挟み込まれるコトバになること。

ある時、注目されている若手経営者のインタビューをしたが「経営者の仕事はRPGを作ること」という話が印象的だった。社員が夢中になって没頭できる目標や設定、デザインを整えることに集中する。それができると、発破をかけずとも自然にそれぞれのプレイヤーは仕事をやり込んでどんどんレベルアップしていく。

最近の魅力的なパーパス事例①:富士フイルム

同じことを言うのでも、ニュアンスの解像度を上げる言葉を意志をもって差し込むことでイメージの伝達率は大きく上がる。富士フイルムの「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というパーパスはすばらしい。環境も意識して世界ではなく「地球上」、また一人の人に何度も笑顔になってもらうから「回数」。

「動的」な言葉を差し込むことでメッセージにダイナミズムが生まれ、受け手のイメージが転がりはじめる。富士フイルムグループの新パーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」は「回数」が効いている。高い抽象度を持ちながら、同時にクルクル回る動的なイメージが拡がる優れたステートメントだ。

最近の魅力的なパーパス事例②:サンリオ

パーパス策定の難しさは、全社員共通の芯をつかまえると抽象度が上がりすぎて何も動かさない言葉を高く掲げてしまうこと。高い抽象度でかつ、それを基点に人のココロを駆動させる言葉づくりにはコピーライターが必要。サンリオは渡辺潤平さんを起用し「誰も、一人にしない。」を新パーパスとして策定した。

「LOVE & PEACE」的な大事だけど、全宇宙に言えてしまうことで結果的に「何も言ってない」残念な言葉になるケースは多い。「◯◯に寄り添う」もそのひとつ。同じことを言うのでも、サンリオの新パーパス「誰も、一人にしない。」は素晴らしい。多種多様なキャラの存在意義を含めて一行で喝破している。

「バリュー」で調整する感情のマネジメント

私が生まれ育った広告代理店という組織は「野武士集団」。いつでも競合と取っ替えられるプレッシャーの中、仕事場=戦場なので「モチベーション」とか「心理的安全性」とか捨象された世界だった(当時は)。一方で、今のベンチャーや事業会社にとって最も重要なのが、社員の感情のマネジメントだ。はじめて事業会社に入った時はあまりのギャップに驚いた。「会社やなぁ〜」と思ったものだ。余生のような心持ちであった。

感情のマネジメントはコトバによって可能になる。普段のやりとりでは、意識的にキャラ化・ネタ化することで事象とココロの間に余裕を生むと、心理的安全性を確保できる。特に社内チャットベースのコミュニケーション空間においては、スタンプなどのミームでポジなフンイキ演出を行うなどの工夫が効果的。

一緒に働く者同士のココロの摩擦係数を下げる決まりが「バリュー」。みんなが一緒に気持ちよく働くための最低限の「仕事のマナー」で、これが職場に定着すると前向きなムード&モードが増幅していく。「シラケた」職場はバリューを浸透させることに失敗していることが多い。

感情は扱えば扱うほど「もつれる」ものなので、感情を前に向かわせようとするならコトに向かうしかない。コトのベクトルは「理念」によって決まるので、チームみんながしっくりきてワクワクする理念策定が第一歩。それを掲げるのではなく、評価の尺度や日々のスタンプなどで「使い倒す」ことで浸透させる。

前向きな感情よりネガティブな感情のほうがターボがかかりやすい。核の連鎖反応のように膨らみ、大爆発する。さらにポジ感情と違って、ネガな感情はとめどなく湧いてくるので、基本的には取り扱わないこと。応急処置的に吐き出させることはあっても、そのあとは全部忘れて仕切り直してコトに向かわせる。

社内チャットは社員同士のコミュニケーション速度・濃度を圧倒的に高めるので、その空間自体が仕事場となる。そこに空気清浄機のように「いい空気」を生み続けてくれる存在がいれば職場全体の生産性が底上げされる。この貢献はKPIで評価しにくいが、にも関わらずコミットする姿勢は本来一番評価すべき。

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