名作CMなどの副産物として生まれる「ブランドミーム」はその時の広告効果の最大化はもちろん、コミュニケーション資産として後々まで残る。これは一回きりの「伝説」にしておくのはもったいない。ここぞという時に芸人の「持ちギャグ」のように取り出すことで、瞬時のスパイクを安定生産してくれる切り札として使える。
本来、15秒CMと即時に意味喚起できる一発ギャグの親和性は本来的に非常に高い。なかやまきんにくんの「パワー!」や「どっちなんだい?」、とにかく明るい安村の「安心してください、履いてますよ」はCM企画にも落としやすいし、コンクール受賞などで一定の尊敬による安心感もある。やす子の「ハイ〜」もそうだが、好感度が高く持ちギャグがあればCM企画会議にはひとまず乗りやすい。
意識する/せざるを問わず、我々の脳裏には好きな作品の名シーンや名台詞と同じくらい、むしろそれ以上に膨大なブランドミームが埋め込まれている。映画やドラマなどのコンテンツと広告(特にTVCM)の一番の違いは、その反復性にある。気に入った映画でも観返すのはせいぜい数回だが、ある特定の時期に何十回と接する広告はココロに深く刷り込まれる。昔のビデオテープを発掘してきて再生するとわかるが、今見返した時に感動するのはむしろ番組の間のCMという逆転現象が起きることに驚くだろう。
ブランドミームを再利用してスパイクを生み出した最近の事例
事例①:王道感とともにブランド鮮度を更新したキューサイの青汁
通販市場の成熟とともに青汁王子なども登場し、レッドオーシャン化している青汁市場において老舗のキューサイは伝説の「まず〜い、もう一杯!」をリバイバル。中学生の頃から愛飲しているなかやまきんにくんを起用し「本物は、まずい」をキーワードに、様々な青汁が林立する中での王道感を訴求。
長年の歴史を持つ老舗ブランドのキューサイだからこそ「実際に飲み続けてきた」愛飲者・なかやまきんにくんを起用して改めて「まず〜い、もう一杯!」ができる。今一番フレッシュなタレントによる「パワー注入」によって、一気にブランドリフレッシュを図ろうというコミュニケーション戦略といえる。
事例②:TVCMをリメイクした湖池屋ドンタコス
誰もが憶えているTVCMのリメイクは「0秒で心を掴む」方法。伝説のTVCMのリバイバルにおいては、当時は存在しなかったSNSなどと絡めたユーザー巻き込み型のコミュニケーションにすることで生活者にさらに一歩深くまで踏み込める。
湖池屋ドンタコスは商品リューアルに合わせて、新発売時にブレイクしたCMソング「ドンタコスったらドンタコス♪」を再利用。「ドンタコスの音楽なんの動画にも合う説」など思わずCGMを作っちゃいたくなる切り口を掲げることで、一般の人も無邪気に参加できる仕掛けになっている。さらにビリーズブートキャンプのビリー隊長ともコラボし、90年代➡ゼロ年代➡そして現代へと3層構造のノスタルジアによる絶妙なくすぐりを実施。
事例③:ブランドネームのミーム化CMを復刻したじゃがりこ
反復的に触れる広告は、特徴的な要素それ自体がコミュニケーション資産となる。カルビー「じゃがりこ」は発売30周年を記念し、特徴的なリズム音源にフォーカスした「# じゃがりこリズムチャレンジ」という動画コンテストを開催。リズム音源をはじめて公開し、ファンが共創できるようにした。
「ジャガリコ ジャガリコ♪」は商品名と食感シズルを完全一致させた、言わずと知れた無敵のブランドミーム。発売30周年のタイミングでこれをユーザー参加型の枠組みで再度活用し、古参ファンのノスタルジーを掻き立てるとともに新規ファンの「ナニコレ感」による参入を促し、ブランドの再ブーストをかけている。
事例④:過去のコミュニケーション資産の上に新たなメッセージを積み上げるクロネコヤマトのアプローチ
企業が新しいことを始める時、既存の取り組みの上に積み重ねていくのだという意味を伝えるのに有効なのが過去のコミュニケーション資産の活用。ヤマト運輸はSDGs文脈に合わせた新たな取り組みをアピールするため「クロネコヤマトの宅急便♪」という長年親しまれたフレーズに、カーボンニュートラルを挿し込むことで「これまでの歴史の上に新たな挑戦を始める」ことを伝えている。
「クロネコヤマトの宅急便♪」のおなじみフレーズに「カーボンニュートラル配送の」を付け加えるCMは、既存のサウンドロゴの上に加える行為自体に意味があるため、菅田将暉がスタジオで声を吹き込むシーンをTVCMにした。新しい取り組みだが、あくまでこれまでの精神の延長線上にあるものであることを表現している。
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