瞬時の接触でメッセージを伝える広告において大事なのが「コミュニケーションスピード」。そのために必要なのが、考える前に「意味がほどけるようにわかる」設計。でも最初から意味がほどけてたらダメで、アタマの中で意味をほどいていく「過程」が認識的体験記憶となる。広告とは、15秒で15分ぶんの情報量を伝えるための「符牒」を駆使したコミュニケーションなのだ。
それを実現するには、コピーやデザインはもちろん、キャスティング、音楽、演出など様々な要素を総動員して広告クリエイティブに詰め込む必要がある。
コミュニケーションスピードを上げる「アノ手コノ手」
広告のコミュニケーションスピードを上げる鍵は、まずはコピーである。糸井重里さんと並ぶコピーの大御所・仲畑貴志さんはまさに「コミュニケーションスピードの鬼」のような人。そうしたコトバを生むための癖づけとして仲畑さんが薦めていたのが、アタマに「早い話が」と付けてからその先の言葉を書いてみること。書けたら「早い話が」を切れば端的なコピー(の原形)ができる。常にキレがあって本質をつく仲畑さんの話も、この発想の癖づけの賜物なのだろう。
「目のつけどころが、シャープでしょ。」な仲畑さんの早い話例をいくつか挙げてみよう。まず多機能な美容液アンテリージェのコピーは「顔は、ハダカ。」これはドキっとする気づきを与える、厳然たる「事実」を切り取った表現。他にはパルコの「目的があるから、弾丸は速く飛ぶ。」も鮮烈なイメージが走る。「ベンザエースを買ってください。」はコピーの表現競争社会の逆をいくストレートパンチ。ミスチルがドロップキックすれば、仲畑さんはストレートパンチを社会に放つのだ。
既知の前提知識=コンテクストを活用する
既に受け手の理解が完了している認識である「コンテクスト」を活用すればコミュニケーションスピードが上がり、スッと理解される。だがそこに「文脈の裏切り」がないと単に既に知っていることの繰り返しと受け取られ、メッセージとして残らない。カットボールのようにいつもの軌道から手元でクッと動くのが◎
CMでタレントを起用したりナツメロや替え歌を使ったりするのは説明無しに理解させるため。秒数の限られる広告はコミュニケーションスピードが命だが、広告にタレントを起用すれば、その人の文脈によって説明を端折れる。形状によって直感的に機能を想像させるというアフォーダンス効果の多重奏によって、ドアノブをみたら無意識に回すが如くブランドの世界観へと(15秒だけ)視聴者を誘う。つまり、タレント性=ドアノブの形状なのである。
物性は演者選定にも込められる。リニューアルした湖池屋ストロングは「クールかつストロング」性を纏う三吉彩花を起用し一口目の衝撃と一袋の快感を表現。サントリー茉莉花缶はジャスミンの爽やかな香りや軽やかな味わい、またJJ(焼酎のジャスミン茶割り)という新しい飲み方を体現する川口春奈を起用。
音楽も同じ。15秒で好感を勝ちとるために最近は替え歌流行り。好感度1位マクドはRIPの太陽とビキニ、2位のカップヌードルもゆこぴの強風オールバック。またデリカミニはキャンディーズの年下の男の子で大きく好感度を上げた。
注目を集める映画などの作品も強いコンテクストの起爆装置となる。味の素の「フードロスラ」はゴジラがモチーフでアカデミー視覚効果賞の白組・山崎貴監督を起用して注目度も上げている。半分の244万トンが家庭の残飯ということを怪獣としてわかりやすく見える化した。
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