なぜWebメディアのテキストは読まれないのか?ヒトに向けて書かれていない「Webライティング」問題を構造的に考える

広告やメディアに限らず、WantedlyやNoteなどの採用広報・採用マーケにおいても情報化が進み、ビジネスのあらゆる領域でテキストコミュニケーションの重要性が高まっている。一方で、プロでない人が書いているので皆が他社を見よう見真似で書いていて、結果全員が間違った文章で、全員が同じような文章を書いてしまっているのが現状である。

では執筆をライターに任せればいいのか?というと、一般的なレベルのWebライターに任せても50歩100歩。違いは、ちょっと手際がいいくらい。根本的な原因は「Webライティング」といわれるノウハウ自体の欠陥にある。今回はこの構造的な問題を指摘しつつ、ふわっとした根性論で締めたい(ノウハウをすぐに欲しがる姿勢それ自体がよくないというのが趣旨なので)。

今のWebライティングは根本から間違っている

現在一般的に普及している「Webライティング」はSEO文脈から生まれたスキルなので、明確な問題意識を持ってGoogle検索した顕在層向けの書き方。検索意図に対して必要十分な情報量を載せていると「検索エンジン」に判断されれば評価される。一方で、本来は世の中のほとんどの記事は潜在層か準顕在層向け(つまり明確な意図をもたずになんとなく閲読している状態の読者)なのだが、そこに対して顕在層向けの文体で書くから軒並みうまくいってない。

ただ、本文の数値検証もしていないため、その失敗にも誰も気づいていない(ここの問題解決はブルーオーシャンかもしれない)。通常各Webメディアの編集部で行われている読者テストはすべて「タイトル検証」である。だが気になるキーワードに脊椎反射で反応するタイトルと、クリック後に改めて閲読する記事ではユーザーのモードはまるで別物。

前者はScanモード(=ユーザー)で、後者はReadモード(=読者)にも関わらず、みんな前者の「コトバの反射係数」しかみていないのだ。これでは「読者理解」など一向に進まない。読者理解を深めるためにはタイトルABテストではなく、記事本文の読了率・クリック率・ヒートマップ分析が必要だ。

普通「基礎」とよばれる知識やスキルは本質的で上級スキルの土台となるものだが、ことWebライティングにおいては違う。説かれている基礎が悉く間違っているから、そこから発想しても中級に行けない。検索エンジンではなく、「人間」に対して刺さる文章を書くためには「◯◯の3つの理由」的なものは一度全部忘れて、自ら夢中になって新たな体系を組み上げる必要がある。

あるべきWebライティングは自分で創るしかない

大谷翔平が異次元成長する裏にはアクション毎に数字で確認する姿勢がある。彼が「デザイン革命の申し子」と言われる所以だが、彼はそれをメチャクチャ愉しんでやっている。スイーパーの回転数や打球の角度など、一動作ごとに数値を確認して確かめている。これはもちろんスポーツに限った話ではない。むしろ、ビジネスの方がより科学的に取り組まなければならないジャンルのはず。だからライティングも同じように、一行ずつデータをみながら、数字を通して読者と対話するように技術を積み上げていく必要がある。

私もメディア在籍時代、BtoCで120案件、BtoBで50案件の記事広告を自らオリエン~企画・執筆~レポーティングまで行った。都度300万円払って出稿してくれたクライアントへの責任を負いながら、4年間で170記事、一行ずつ必死に閲読態度の分析に熱中した。愉しみながら新しい書き方を確立した後見渡すと、巷の「(Web)ライティング」は全部間違ってるとわかる。

書き手はリアリストであれ

閲読データを見れば、読者がいかに気ままで移り気かわかる。一般的なWebライティングの書き方で書かれた記事は、残酷なほど読まれていない。そもそも文字数が多すぎて単なる書き手の「自己満足」に終わっている場合がほとんど。読了率でいえば30-40%程度という絶望的な低さで、書き出しから青く冷えていくヒートマップを見れば書き手の顔も青ざめるはずだ。

記事は書く方はいくらでも書けるが、読む方はそうはいかないという自覚が必要だ。読者が一度に受け取れる量には限界があるので、文字量は削ぎ落としながら一方で情報量を上げていくという技が求められる。そのためには言葉によってイメージを喚起すること。文字情報よりイメージ情報の方が断然情報量は多いのだ。最初に記事のフォーカルポイントを提示し、それを土台に話を転がしていくことで連想記憶化させていく。さらに記事タイトル冒頭にもそのフレーズを入れることで、読後もリマインドして記憶を上塗りする。

 記事とは文字を介した受け手へのプレゼンテーション

よい記事は、そのまま口頭プレゼンできる情報密度と論理設計を持つ(自分のポッドキャスト番組も、記事を無編集でそのまま話している)。多くの場合、記事を書く時「体裁」を整えるのに汲々としてまわりくどくなる。対面で飽きずに聴かせられるかを考えるべき。

モノマネ文化はつまらない

ビジネスにおいてベンチマークは基本だが、「文化的ベンチマーク」は浅はかである。機械を分解して競合の技術を盗むのとは意味が違うだろう。他の語り口を分析して同じようなものを語ることに何の意味があるのか?他社のメッセージを分析するのは、同じ方向に行かないようにするための作業だ。

動画企画を提案しても「参考にした動画は?」と聞かれることもあるが、あるわけがない。何か特定のものを下敷きにクリエイティブを創るなど、ありえない。それは盗作。そして、意識してないのだとおもうが、そういうことを制作者に言うことはとても失礼なことだ。悪気はないとは思うが、盗作しないためにも写経してるのであって、他者のフレームをそのままパクるなんて絶対にない。クリエイターは人生の全てをインプットとして、今新たに直面した課題にその全てのエッセンスをぶつける仕事、というか生き方をする人間だ。

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