タイパ星人の新たな相棒。いま再注目される「音声メディア」が熱い理由を考察する

リモートワークの普及で在宅が増え、またオフィス勤務の時もイヤホン利用は当たり前になったので現代人は「耳の可処分時間」が増えている。また今はiTunesに同期させずともスマホとAirPodの組み合わせで家事や散歩中、ジムで身体を鍛えながらなど動きながらでも誰でも聴けるので、人は音声コンテンツと共に生活するようになっている。

「マーケターの真夜中ラジオ」リスナーの話でも、家事をしながらや皇居ランをしながら、また仕事でアタマを使わない単純作業のお供にしている人やオフィスでかけっぱなしにしているという会社まであった。視界を奪う他メディアに比べ、遥かに自由なスタイルで聴かれるのが音声メディアの特徴といえる。

現代人が抱える「時短」や「タイパ」といったニーズにピッタリなのも、見直しが進む要因だろう。Voicyなどのサービスも立ち上がり、改めて存在感が高まっている「古くて新しい音声メディア」の魅力について、真夜中ラジオ100回放送というこのタイミングで改めて考えてみたい。

古くて新しい「音声メディア」のパワーの秘密

脳が「能動的」にイメージするメディア

最近HOTなメディアとして再注目される音声メディアの特徴は、その他全てのメディアにある「画」がないこと。それゆえに、受け手は自ら主体的に「画」をアタマに描きながら試聴することになる。脳が「能動的」にイメージする(でないと理解できない)ので印象が刻印され、エンゲージメントも強い。

動画と比べて「情報量が少ない」からこそ、聞き手の「脳」との共同作業が発生し、結果的に多くの「イメージ」を脳内に残すことができる。音声メディアのパワーの秘密には、この逆説的構図がひそんでいる。コミュニケーションにおいては情報量=記憶量ではないのだ。

1対1でつながるパーソナルメディア

音声メディアはパーソナルメディアとも言われるが、声の響きによって話し手と聴き手が1対1でつながるメディア。だから話者は「パーソナリティ」と呼ばれる。同じ場で複数人で聴取していても、一人ひとりのアタマの中にそれぞれの「画」が切り結ばれるために、試聴形態を問わずあくまで個人的な体験となる。

太古の昔より、人は(動物は)そもそも声でコミュニケーションをとっていた。音声メディアがダイレクトに心に届く理由もここにある。誤読のある活字では人によって受け取り方にかなりのムラがでるが、声の調子やニュアンスで理解の補助ができる音声メディアは多量の情報をストレスなく正確に伝達できる。

また、この1対1の関係は距離や属性を超えることもある。iPod普及とともにポッドキャストが出始めた頃、日経ビジネスが編集長の熱い語りを配信して新たな購読者を獲得していた。30万部規模の雑誌の平均年齢が1年で2歳若返ったというからかなりのインパクトだ。この全く新しいメディアパワーは距離を超える、と確信した私は関西の母校に提案。2007年~2012年まで関西学院大学はラジオ放送+ポッドキャストを実施し、首都圏のビジネスパーソンと「声と役立つ知識」を介してつながった。

1対1の深い関係だからこそ、その影響力も強い。ニッポン放送の通販コーナー「ラジオリビング」は井戸端会議感覚で聴いていたパーソナリティーがそのままの調子で商品紹介をするため、強力なクチコミ効果を持つ。画がないにもかかわらず通常5-10%の返品率も1%未満に収まるという。長年愛されるラジオはマスのクチコミメディアであるともいえるのだ。

生涯学習社会のサプリメント

発信のしやすさから多様なコンテンツが溢れるポッドキャスト。誰かの話を聴き続けることで他者の視点や考え方をインストールできるので、たとえばお気に入りの三人をみつけたら一年のうちに三人のゼミに入るようなもの。しかも無料で。これからの時代に重要な「継続的な学び習慣」を手軽に叶えてくれる。

音声コンテンツの魅力は、他人の思考回路を臨場感をもって追体験できることだと思う。人には解釈のクセやバイアスがあって、読書してもそれはとれないが、会話情報として受け入れると緩和される。そして他人の視点で観た世界観を獲得することで視野が拡がると同時に、以降の活字の吸収率もよくなる。

映画やゲームなど映像を伴うコンテンツは膨大な手間とスタッフが必要になり、他人を動員すればするほどコントロールも難しくなる。一方で音声コンテンツは自分自身の言葉だけであらゆる描写が可能なので、肩肘張らずに自らの世界観・言語空間を広げていける。まさに個の時代の情報発信にぴったりサイズ。

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