「符牒」としての広告コピー。一行でパッとイメージが拡がる脳のスイッチの押し方

広告コピーとは一瞬の接触で受け手のアタマの中にブランドイメージを喚起する「符牒」である。短い言葉そのものの意味ではなく、そこから引き出される膨大なイメージこそが実態価値だ。符牒のやりとりには予め認識のすり合わせが必要だが、多くの場合は文化コンテクストがその代替となる。

良いコピーとは「一行でパッとイメージが広がるコピー」であると言われるが、これはコピーが符牒の役割を果たしたときに起きる現象。画を見せられるのではなく、脳が能動的に画を思い描く。この主体的関与=認識的体験により記憶に刻印される。デザインよりもビジュアルなコトバというものは存在する。

「符牒」としてのコピー実例

①ロッテ「お口の恋人」

ロッテ「お口の恋人」はたった5文字でパッとブランドイメージを喚起する。ただ甘いだけではなく、甘美な味覚体験をいつでもどこでも誰にでも安価で提供するというブランドの約束が込められている。飴は仕事や勉強のエネルギーをくれる相棒であり、ガムは単調な毎日をリズミカルに弾ませるものなのだ。

②資生堂「一瞬も 一生も 美しく」

資生堂の「一瞬も 一生も 美しく」は一行で一生分のタイムトラベルにいざなうタグライン。「一」や「sh」「も」の小気味よい韻が感情の助走を促し、極小⇄極大のコントラストが想像力の起爆装置となる。その結果、受け手それぞれが「自分」の理想像そのものとして生き抜く姿をたくましく想像する。

③村田製作所「恋する部品製作所」

クール&無機質な精密部品に「恋」というホット&ヒューマンな概念を取り付けた村田製作所の「恋する部品製作所」はBtoB企業によるコミュニケーションの発明と言っていい。情熱でもこだわりでもなくて「恋」。受け手の中の認識をリフレッシュし、新たな関係性を打ち立てる切り口。企業と出会い直す感覚。

④ミネベアミツミ「世界を こっそり ごっそり 変えていく。」

部品メーカーで最近意志あるメッセージだと思うのがミネベアミツミの「世界を こっそり ごっそり 変えていく。」小さなベアリングなどの精密部品がダイナミックに私たちの生活を変えていることに改めて気づかせてくれるアプローチ。これも資生堂同様こっそり⇄ごっそりで極小極大対比&押韻が効いてる。

⑤マリンワールド海の中道「ズンズンペンギン」「ヌンヌンアザラシ」

体験価値はそそる言語化によって追体験欲求をかきたてられる。効果的な手法の一つがオリジナルの擬音語をつくること。マリンワールド海の中道の「ズンズンペンギン」「ヌンヌンアザラシ」は間近で観られてどんどん迫ってくるような迫力ある体験価値を想像させ、思わずヌンヌンされたくなるアプローチ。

「映画」もまたコミュニケーションの符牒である

コピーの本質が文字ヅラではなくそこから喚起されるブランドイメージであるように、映画の本質もまた映像そのものではなく鑑賞後に残る「共有体験による感情」だと思う。作品それぞれが持つ固有の「独特の後味」は2hの感情のジェットコースターを体験した者同士であれば即時に共感できる符牒となる。

最近の白眉は、是枝裕和監督の「怪物」だ。ホントに怪物のような映画。怪物とは「普通」の私達そのものであり、そして観ている自分自身の偏見なのだ。ということが徐々に体感的に(ズンズン&ヌンヌンと)わかってくる構成になっていてアカデミー脚本賞も納得(脚本は坂元裕二氏)。テーマは決して明るくないが、最初に「アレ?」と思ってからは発見の連続で愉しめる作品。

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