いにしえより伝わる古き善き、そして太き文脈を使うと間口と奥行を両立させた強いメッセージが打ち立てられる。「昔むかしあるところに」といった昔話構文の中には豊かな表現フックがたくさん埋まっていて、それを掘り起こせば速やかに意味伝達できる。さらにコミュニケーションスピードが速い。
昔話よりも最近の、漫画やゲームの文脈から引用する例も多い。鳥山明世界観(元は西遊記だが)を意識していると思われるサイボウズの「キントーン」や、スーパーマリオから引用しているMAツール「b→dash」など。BtoB領域において「ビジネスがビュンッ!と加速する」イメージを表現している。
サブカルチャーからの引用も強力だが、「いにしえ構文」は著作権フリーなので何かとアレンジしやすい。
「いにしえ構文」を活用したコミュニケーション実例
活用例①:昔話構文を広告に適用する
1994年に発売されたブラックサンダーは、当初販売が奮わずに翌1995年には生産が停止していた。その時に九州の一部店舗から復活を望む声が上がり販売が再開された経緯がある。その歴史を受けて発売30年を機に「九州のみなさん、あのとき助けていただいたブラックサンダーです。」というメッセージを九州エリアの新聞広告などで掲載。終売しかけた時に声を上げてくれた小売・卸に感謝し、同時に恩人探しをするキャンペーンを展開した。
「鶴の恩返し」という誰もが知る物語構文にあてはめることで、ブランドストーリーを解像度高く浸透させることにも成功。既に定番商品となっているブラックサンダーのブランドリフレッシュメントにつなげている。既に定番商品となっているブラックサンダーのブランド鮮度を更新し、次から商品を食べる度に起こる新たなナラティブのネタを撒くことにも成功。
活用例②:「土用丑の日」を問い直す
旧くからあって今更疑うことのない慣習も強固な文脈であり、うまく使えば歴史のレバレッジが効くので強い。新聞広告賞に選ばれた鹿児島県鹿屋(かのや)市の「土用の『うしの日』問題」は鰻(ウナギ)も牛も名産品である同市の牛の生産者側が「うしの日なら素直に牛食えば良くね?」と気づいてしまうことから始まるストーリーを展開。
鹿児島県鹿屋市は、鰻も牛も名産品という市の特性を江戸時代から伝わる「土用のうしの日」文脈を活用してセットで鮮烈にアピール。誰もがそのフレーズを知っているが現代人は正しい意味はよく分かっていない「曖昧さ」を逆手にとって、「フツーに考えたらこうじゃね?」と妙な納得感を作っている。本来鰻の旬は初冬で、夏に需要が落ちるところをテコ入れする平賀源内のアイデアだというのが通説で、江戸時代に生まれた販促コンセプトをオマージュしたともいえる。
活用例③:無人島に1つだけ持っていくなら?文脈を活用
使い古されたアイデアこそ、コミュニケーションスピードを上げるジャンプ台となる。「無人島にひとつだけ持っていくとしたら何?」を耐衝撃、防塵、防水、自律神経などのスマホの機能訴求のために使うオダジョーを起用したArrowsのTVCMは上手い。状況が一変しても、盤石なスマホがひとつあれば普段と変わらずに過ごせる。これを訴求するため、Web動画版では一年後にも全く同僚から気づかれずに余裕で無人島生活を送る様子が描かれる。
よくある「無人島にひとつだけ持っていくとしたら何?」のお題は、身の回りにある全アイテムからマルチで多機能、丈夫なモノを選ばせる命題で、誰もが一度ならず考えたことのあるテーマ。定番のお題を振ることで、瞬時に受け手のアタマの中に「頼りになる〇〇」のイメージを立ち上げ、それを商品に落とし込んでいる。
広告コピーとは一瞬の接触で受け手のアタマの中にブランドイメージを喚起する「符牒」である。短い言葉そのものの意味ではなく、そこから引き出される膨大なイメージこそが実態価値だ。符牒のやりとりには予め認識のすり合わせが必要だが、多くの場合は文化コ[…]
マーケ現場の「なんか違う」は、一歩目の踏み出しの弱さ=言語的整理の不足が原因。まずはコトバで太い骨格を通した上で(STEP①)、デザインによってそれを肉付けする(STEP②)のが基本だが「それっぽいが何も言ってない未完成なコトバ」をベースに[…]
瞬時の接触でメッセージを伝える広告において大事なのが「コミュニケーションスピード」。そのために必要なのが、考える前に「意味がほどけるようにわかる」設計。でも最初から意味がほどけてたらダメで、アタマの中で意味をほどいていく「過程」が認識的体験[…]