広告は受け手に「!」を与えるものと「?」を提起するものがある。つまり気づきを与えるアプローチか、受け手に考えるきっかけを与えるアプローチ。そのどちらも、送り手は明確な意志をもってメッセージを鋭利に磨く必要がある。
つまり「?」型であっても、何を考えさせるかは明確でなければならない。フンイキで誤魔化して受け手に解釈を委ねるのは特定の目的を持つはずの広告の仕事ではない。それはアートだ。
「?」型の代表例は、歴代の宝島社の新聞広告
「?」の代表が宝島社の鋭利な新聞広告だろう。言論機関の広告が「キレイゴト」であってはいけない、とはいえ宝島社ほどタブーを題材に時代に大きな「?」を投げかけた企業はない。その最たる例は1998年に掲載された「おじいちゃんにも、セックスを。」である。
若年者より高齢者の方が多くなるこれからの時代、「高齢者」と一括りにするのではなく一人ひとりの多様な生(性を含む)を尊重しようじゃないか、という社会への問いかけ。人々が持っている既存のイメージに大きく揺さぶりをかけるために、ショッキングな、しかしリアルな視点を提示している(高齢者間の恋愛や性のいざこざは実際にたくさんある)。
その他にも団塊世代のリタイア期にリタイアの捉えなおしを訴えた2006年の「団塊は、資源です。」や、東日本大震災後の2011年9月に掲載された「いい国つくろう、何度でも。」など、その時代に対して鋭い「?」型のメッセージを放ち続けてきたのが宝島社。
これまで暗部やタブーに焦点を当てて「考えさせる」アプローチをとっていた宝島社だが、2024年のアプローチは少し違う。奇しくも能登地震直後となった1月5日掲載の「失われた30年じゃない。天才たちが生まれた30年だ。」はこれまでの暗部を抉るアプローチではなく、皆が諦めたものに光を当てるもの。「?」型というよりは「!」型で、まっすぐポジティブな視点を開かれた未来に対して注ぐメッセージになっている。
出典:「死ぬときぐらい好きにさせてよ」タブーだった「死」に触れた広告
これら一連の広告は「新聞紙面」で行われた、という点も重要である。マクルーハンは「メディアはメッセージである」と言ったが、広告とはどこに載せるか?というメディア文脈を含めてメッセージが完成する。その意味で「社会の木鐸」たる新聞広告とは社会に大きな問題提起をする場として本来最適なはず。・・なのだが、宝島社以外にはあまりそうした特性を意識した広告は見られない。
あるとすればスマホ=スクリーンの向こう側に対抗したリアル化メディア、あるいは体験型メディアとしてのOOHの特性が際立ってきたくらい。メディア自体がメディア枠の活用で模範を示していく必要がある。
投げっぱなしの「?」と薪をくべる広告
明確な「?」を投げかける宝島社の広告に対し、世の中にはふわっとした「?」や「!」を投げかける広告が多い。たとえばパルコの2024年の広告テーマは「Believe It or Not!」進化したスマート家電やロボティクスが徐々にヒト化し、リアルとファンタジーがないまぜになった不思議な世界を描く。これも宝島社と同じく「?」型のクリエイティブだが、解釈が受け取り手に完全に委ねられてしまっている。これまでモノをカルチャーとして売ってきたパルコ的な語り口として成立するが、他社が広告でやるべきではない(「?」を投げっぱなしにしてよいのはアート)。
また、adidasの今年のキャンペーンはスポーツの「プレッシャー」に着目し「YOU GOT THIS(大丈夫、いける。)」というメッセージのもと、メッシや久保などを起用してプレッシャーを乗り越える先の楽しさを訴求。キャッチには何の捻りも発見もないが、これまでadidasが紡いできたストレートなメッセージの延長ということで成立している(のだろう)。王道のコミュニケーションにおいては、視点の当て方を少しずつ変えることでリフレッシュさせていく。
パルコの2024キャンペーン「Believe It or Not!」やadidasの「YOU GOT THIS」など言葉としては置き換え可能性が高すぎるし、コピー単体だとハッキリいって弱い。しかし世の中のほとんどはこのような「薪をくべるコピー」である。挨拶を毎朝するような感じで、同じようなことを言い続けて、温度を保つコミュニケーション。
よくないのはadidasやパルコがやってるからってこれをよいコピーだと思い込んで分析したり憶えたりすること。世の中に出ている広告は大手であっても特に学ぶことのないメッセージがほとんどなのだということをまず知る必要がある。
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