大人になるとあっという間に時が経つというが、私の場合は20代後半がまさにそうだった。一週間のストレスを洗い流すようにビールの泡を浴び、倒れ込むようにして週末に突入する。仕事には慣れてきているので、週明けからは「ひたすらさばく」。するとまた金曜日の夜になる。
繰り返せば繰り返すほど、この間隔は短くなっていった。宮台真司のいう「終わりなき日常」モードに入り込んでしまい、このまま一気に人生の終着点まですっ飛んでいくのかと思った。
時間の長さを変える「センスオブワンダー」の魔法
その流れにブレーキをかけたのは、転職だった。真新しい環境に必死に適応していく過程で毎日の解像度は上がり、それまでの一週間は一ヶ月の長さになった。自分の世界との向き合い方を変えることで、終わらない日常を終わらせられることを私は知った。
「転職」という非日常なイベントに限らず、大事なのは毎日の解像度を上げていくことだ。そこで私は一つの言葉を思い出した。「沈黙の春」という一冊の本で、世界で初めて環境問題を「問題」にした作家、レイチェル・カーソンの「センスオブワンダー」という言葉だ。
毎日ひとつ、世界を再発見しよう。
センスオブワンダーとは、この世界の素晴らしさに目を見開く感性のことだ。シンプルながら、言葉の響きとそれに込められた意味性とが絶妙に響きあった、素晴らしい言葉だと私は思う。個人的には、日本中の「感性を磨く」という陳腐な表現をすべてこの言葉に置き換えられたらとさえ思っている。
センスオブワンダーを発動すれば、昨日まで知っていたこの世界は、実は全く違う世界だったという驚きの連続になる。たかが人間、この世界のことなんて1%もわかってるはずがない。もしわかったような気がしているなら、それは何かがおかしいということだ。
淡路島に移住したのも、その日の空模様やそれに呼応した鳥たちの歌声、毎日違う海の表情や夕焼け予報に合わせて決める晩ごはんの内容など、日々を解像度高く生きたいと思ったからだ。私は毎日、この世界を再発見している。アトリエライフ通信は、その発見の感動を実況中継するためのチャネルだ。