鰻やサンマなどこれまで空気のように存在した日常のあたりまえが失われる時、改めてその本来価値に光が当たり、まばゆい輝きを取り戻す(この秋久しぶりにみた脂の乗った一本300円のサンマは本当にまばゆかった)。人々の価値観の揺り戻しが起きる時、それに呼応してブランドコミュニケーションも動く。
食材の供給難と同時に常態化していたデフレが終わり、もはや鰻は手の届かない高級食材となった。米やサンマは店頭から姿を消し、一時的にだが物理的に手が届かない存在になった。これまで空気のようにあたりまえに存在したからこそ、その前提が覆った時の世の中のキブンの動き(動揺)は大きい。
高まり続ける「ごはん」のシズル感
先日、CMを思いっきり二度見してしまった。コピーの正面衝突事故やない、これ?というのも食べログ20周年で小芝風花を起用した「ごはんいこー!」がGOODですねと投稿したところで、競合のホットペッパーグルメがちびまる子で「ごはん、いこ。」を展開。春キャンコピーが競合でド被りしとる珍事。85年とおなじく猛暑だし、今年は阪神優勝やな・・と言ってたら本当に球界最速でブッチギリ優勝してしまった。
いまのフード系のキーワードは「ごはん」。これまで当たり前だった米が一気に希少化した結果、炊き立ての湯気を纏う「ごはん」という言葉のシズル感が高まっている。いまや銀シャリどころか「金シャリ」化してきているごはん熱を受けて、食べログやホットペッパーグルメの「ごはんいこ」に加え、同時期に吉野家も藤田ニコルを起用した「吉野家でごはんしよ♪」CMを開始。
ごはん熱に連動して「おにぎり熱」も上がる
25年3月、大谷翔平を起用した「おむすび二刀流、解禁」キャンペーンでファミマは過去最高レベルの前年比120%の売上を記録。同時期に放送されていたNHK朝ドラ「おむすび」は大コケしたが、それにも関わらず「おむすび熱」に火をつけた。
飲料は相方となるwith FOOD訴求が鉄板。24年4月にリニューアルした綾鷹は8月以降おにぎりに注目したイベントを実施。ハラカド屋上や渋谷n_spaceで「おにぎり食堂綾鷹」を数ヶ月オープン。上白石萌歌を店主役に起用したCMも制作し、若年層を中心に幅広い新規層を獲得し、史上最大の販売を達成した。
ごはんいこー!なキブンのインサイトとは?
長年あたりまえだった「会食」もコロナ禍で突如失われた日常の行動だ。足かけ3年の自粛期間を経て、その価値は更新されている。各社が活用する「ごはんシズル」は、必ず「誘い合う」呼びかけで締められている。誰かを誘ってご飯に行くこと、一緒に乾杯することそれ自体に日常の輝きが詰まっている。
既に定着した定番ブランドをブーストさせるには特定の潜在需要にフォーカスして活性化させると動く。20周年を迎える食べログは食事しようと言いつつ実現できてない「隠れごはん」が平均2.5回6300億円存在することを調査で確認。小芝風花を起用したCMでホットレストランと共に「ごはんいこー!」と訴求
この「誘い合いたい気分」に合わせたアプローチはミスドもとっている。すっかりおなじみになったブランドは、そのおなじみの価値を改めて宣言するのも有効だが、55周年を迎えるミスドは新ブランドスローガン「いつもあるのに、いつもあたらしい。ミスタードーナツ」を制定。また今田美桜を起用したTVCMでは「ミスド集合で」というコミュニケーションコンセプトを打ち出していく。
彼方なる島、ハワイ
一昔前は手の届く贅沢だったものが失われた時、その欲求は切実さに変わる。たとえば鰻、そしてハワイ。今夏はハワイ気分が高まる夏にファミマ、セブン、ナチュロ、マクド、ピザーラ、丸亀製麺など各社こぞってハワイキャンペーンを仕掛ける。旅行需要は97%が国内で予算5万弱に対し、海外は平均約30万。
「朝専用」など利用シーンを限定することで商品のエッジが立ち、存在感が立ち上がる。茫洋たるマーケットの中で普段は埋もれていても、特定の時間帯と紐づけておくことで定期的に想起されるブランドになれる。今の生活者は賢いのでシーンを限定したからといっ[…]
マーケターやコピーライターの仕事は、激変する社会の中で生まれる新たな感情やインサイト(ホンネ)を察知し、そこに一つずつ名前をつけていくこと。生活者の中に渦巻く新しい感情を拾い上げ、名前をつけて見える化することで、それを基点に新たなプロダクト[…]
以前の記事で読了率を上げ、さらに記事アクションを最大化するにはリード文の「掴み」が全てであると述べた。それでは実際どうすれば読者の心を冒頭で掴めるのか。過去150本の記事広告を執筆し、また記事の反応分析から広告主へのレポーティングまで繰り返[…]