以前の記事で、広告とアートの一番の違いは「解釈を受け手に委ねるかどうかである」と書いた。マーケティング行為の一環として作られる広告は「狙った成果」を獲得するためのものであり、受け手の態度変容をゴールとして逆算して内容が設計される。それに対して、映画を含むアートではその目的が作品ごとに違うため緻密な設計もマストではない。作りたい「画」だけ提示してあとはヨロシク的な作品もあれば、あえて複数の解釈ができる設計にして議論を巻き起こす緻密なものまである。
アートであるから作り方は自由なのであるが、少なくとも受け手の時間とお金(映画の場合)というコストを払わせるのだから、最低限のサービス精神はほしいところだ。映画なら2時間、ドラマなら10時間、朝ドラや大河ドラマなら40時間ほどの時間をかけた分の「報奨」について、少なくとも以下3つは必要だと思う。朝ドラは最も時間コストの長い部類に入るが、割と報奨感の薄いものが散見される(「まれ」など)。
物語の報奨:3層のデベロップメント
第一層:個人のデベロップメント
まず第一に、主人公をはじめとする登場人物の人間的成長感がほしい。「人は成長しないものだ」ということをテーマとして描く作品であれば話は別だが、何時間か何十時間その登場人物に付き合って、何も変わらないのでは見たほうは徒労感を感じてしまう。私の言葉でいえばPerception UPDATEということになるが、物語を通して登場人物が世界なり自分自身について捉えなおし、一回り大きく自由になる。それを観ている方も追体験し、人生の糧にする。そんな体験価値はマストだろう。
第二層:関係性のデベロップメント
次に、登場人物同士の「関係性」の成長だ。個人の成長も大事だが、やはりそれだけだけではドラマ的な盛り上がりを感じにくい。エピソードを重ねるにつれ、お互いの間の共通言語が増えていき、会話が豊かになっていく。これは、リアルな人間関係においても全く同様であり、全ての作品は絆を育むことについての示唆を含む作品であると言っても過言ではない(が、たまに描かれない作品もある。ほぼ駄作である)。
第三層:世界のデベロップメント
最後にもうひとつ。一人ひとりが成長し、絆を育んだ上で、物語の初め(秩序の崩壊)と終わり(秩序の回復)でその世界がより良い世界になっていること。つまり秩序の崩壊を招く要因を乗り越えた状態に物語世界がなっていること。単なる登場人物のじゃれ合いだけでなく、それが世界とつながっている必要がある。ベンチャー企業などは実務においても同じ体験をしやすい環境であるが、数人の仲間たちとのインタラクションで世界を変える(Change the World!)というやった感を追体験できる作品は、月曜日の朝起きるためのモチベーションを与えてくれる。
人生設計においても応用できる「3層のデベロップメント」
この物語的枠組みは、リアルな人生を考える上でも充分役に立つ。そもそも物語自体が数多くの人生から抽出された要素で成り立っているので当然ではあるが。まず第一層の「個人のディベロップメント」は毎日の捉えなおしの積み重ねだ。仕事について、生活について、自身について毎日どのように内面的な進化を遂げていくかを考えていく。第二層の「関係性のディベロップメント」はLINEのやりとりも含めた全てのコミュニケーションにおいて、友人や仲間との会話の文脈をどれだけ太くしていくかということだ。さらに第三層の「世界のディベロップメント」は自分の人生における本業(ほとんどの場合は仕事)において、世界のどの部分を良くしたいと考えていくことだ。これらを打って一丸としたものが、すなわちあなたの人生なのだ。