私がまだ駆け出しの広告マンだった頃、担当案件のオブジェを創ってもらった都合で芸術家の五十嵐 威暢さんの取材をする機会があった。もとはサントリー「響」のロゴデザインなどを手がけた伝説のグラフィックデザイナーでもある。逗子駅からバスに揺られ、着いた所は海の見渡せる山上のアトリエだった。そこで五十嵐さんはテラコッタという粘土を地層状にしたアートを発明し、日々愉しみながら創作にいそしんでおられた。その日から「海の見える山上のアトリエ」は私の中の鮮烈な夢となった。
アトリエは画家だけのものではない。
AIが進化し、人間の仕事にはこれからますます創造性が求められてゆく。高度成長期に形成された現在の会社のあり方は、大量生産・大量消費社会を推進するために最適化された形であって、SDGsな社会における創造的仕事とは必ずしもフィットしない。個人の創造性発揮のためには、これまでとは全く違ったワークスタイルが必要となるだろう。
同時に普及が進むリモートワークは、通勤時間を自分時間に置き換えるというメリットの反面、新たな不具合をもたらした。それは、これまでの家づくりがそこで仕事をする前提で作られていないという問題だ。これはもしかすると、住環境単体の問題ではなく、家族の定義そのものにも関わる可能性がある。オンライン会議をするスペースがないという問題以前に、四六時中おなじ屋根の下でおなじ人たちと生活を共にするという前提の上で家づくり・そして家族づくりを再定義していく必要がある。
アトリエライフ、はじまる。
住環境の選択肢が格段に広がった今、人々の家はアトリエ化していくに違いない。芸術作品を創る場ではなく、ビジネスのビジョンという大きな画を描く場所として。タイミングよく良い物件を見つけた私は一足先に「アトリエライフ」をスタートさせることにした。新しい住環境の検討を始めている人たちの考える材料を提供する場として、アトリエライフ通信を創刊するにいたった。