AIと一緒に業務をしていると、コイツらスゲー優秀だなあと思う一方で「なんでこんなこともできないの?」と思うことがある。たとえば編集仕事だと記事本文はとっても上手なのに、タイトルがふがふが。何度考えなおさせてもキマらず、結局巻き取ることになる。
AIは情報の発散は得意だが、逆の集束がどうにもニガテっぽい。多層に入り組んだ大量の情報を「一点」に結晶化(crystallize)させるには高熱の「意志」を必要とするようなのだ。そこが「究極の”こんなもん”仕事術」のプロであるAIではできない領域。「編集力」が改めて注目されている理由もここにある。
AIが進展するにつれて、人間固有の「意志=アスピレーション」の重要性が増してくる。アスピレーションが発動した時にはじめて、プロジェクトが明日へ駆動する原動力も、困難を打開する知恵=インスピレーションも生まれるのだ。
明日を駆動する「アスピレーション」
AIによって「どうやるか」の能力が急速にコモディティ化するほど、人間には「そもそも何を目指すのか」を決める能力が残る。だからアスピレーションの相対価値が上がる。2026年1月、McKinseyがまさに “Building leaders in the age of AI” という論考を出している。そこでAI時代の人間固有のリーダーシップとして最初に挙げているのが、“Setting the right aspiration”という概念。
彼らの整理では、生成AIは書く、設計する、コードを書く、分析するといったことはできる。しかし、
- aspirationを設定する
- 難しい判断をする
- 人を巻き込む
- 信頼をつくる
といった仕事は依然として人間側に残る、としている。McKinseyのグローバル・マネージング・パートナーも2026年のHBRインタビューで、さらに露骨に『AIは「aspire」しない。優れたリーダーがやるのは「我々は何を目指すべきか」を設定することだ』と語っている。
博報堂も注目する「アスピレーション」
奇しくもこの記事を書く2日前、26年8月24日のForbesに「変革は模倣できない。AI時代に博報堂DYグループが提案する、Aspirationを起点に自走する組織」という記事が出ている。企業のDX・AI実装を支援するMagicx consultingでChief AI Officerを務める中原柊氏のインタビュー記事だ。
博報堂DYグループではAI時代を「Automation(AIに任せる) × Augmentation(人間の能力拡張) × Aspiration(大志)」という「3つのA」で整理している。AIを使えば使うほどアウトプットが均質化するため、最後の差になるのが「自社は何を目指すのか」というAspirationである、という考え方である。
AIによってできることが大幅に拡張した今、改めて働く人々は「更新された可能性」をベースに夢を大胆に描きなおす必要がある。その際にパーパスや経営理念(MVV)といかに接合させて、個人のアスピレーションに火をつけるかが重要になるという。
能力のある人の定義は、20世紀型:与えられた問題をうまく解ける人▶インターネット時代:情報を探し、組み合わせられる人▶AI時代:「何を問うか」「何を目指すか」を決められる人と変遷している。
AIによって「答えを出す能力」の希少性が下がるほど、「問いを立てる力」+「望ましい未来を構想する力」+「そこへ向かおうとする意志」の希少性が上がる。この3つを束ねた概念として、Aspirationが出てくる。
「アスピレーション」はインスピレーションの母である
パーパスや経営理念(MVV)は個人のアスピレーションを発火させるための装置である。研修をやっても社内制度をあれこれといじっても自走組織になかなか切り替わらないが、そもそもの価値観が合っていなければそれらの努力は無効となる。だからこそ重要性が高まっているのだ。
コピーライティングの中でも企業スローガンや経営理念(MVV)は最も抽象度の高い仕事だ。その抽象度の高い概念の中に熱い「パッション」を込めるには、まず経営者のアスピレーションを受け取る必要がある。何万文字のオリエン資料をもらっても書けるものではない。
編集者やコピーライターが介在する第一の価値も、まず経営者のアスピレーションを引き出すことになる。身内に向かって熱い話はしにくいし、ましてやAIが上手に聞き出せるはずもない。プロの第三者が介在して、はじめて熱い源泉にたどり着ける。
このアスピレーションを、その一端でもいいので受け取ると、はじめてオリエン資料に並ぶ文字情報も命を持ち始める。そして語られていない行間も読みとれるようになり、それを土台にインスピレーションが生まれる。アスピレーションこそが、インスピレーションの母なのである。