推し消費の「キャンバス」となる商品戦略。自分探しの終着点は「推しへの没入」の先にあり

世界一の長寿国でGDPは4位にもかかわらず、日本の幸福度はOECD36カ国中21位(2025年)とイマイチ感が拭えない。もともと苦労性でネガティブバイアスも強めなのに加え、同調圧力もエグい。そこへきて個性だワークライフバランスだと「一見よさそうな」理想と反比例するように幸福度は低下している。

そもそもムリゲーなワークライフバランスは置いておくとして、日本人が目下一番手こずっているのが「自分探し」というやつではないだろうか。SMAP(と槇原敬之)が個性とは「No.1ではなくオンリーワン」である、と見事な概念的整理をつけたのは2003年。しかし、なにもおこらなかった。

「自分」を探すのにわざわざ遠くインドを歩き回ったが、激しい下痢で自分探しどころではなかった。その頃生まれたブログやSNSで世界に発信してみても、やはり何も見つからない。懐かしいTwitterの「青い鳥」は、今思えば”探しものは自分の中にあるよ”という真実を示唆してくれていたのかもしれない。

あたりまえの話だが、探している「自分」は自分の中にあるのだ。「もともと特別なオンリーワン」とSMAPも断言していたではないか。だが問題はその肝心の「自分の中の特別性」が見当たらないことだ。「自分」を観ていては自分は見えない。ここで「他者=推し」への没入がヒントになる。

「推し」への没入から再帰的に自分を見つける

たとえば何かアイデアを考える際、机の上でウンウン唸っても何も出てこなかった「解」が、あきらめて買い物に行った際にパッと出てくるということはないだろうか。何かを見つけるには、一旦そこから視点を離してみる。これは人間ならではの悩ましくも面白い特性である。

「自分探し」についても同様、マジガチで自分を探している間はきっと見つからない。迷宮入り間違いなしである。そうこうしているうちに子が産まれ、自然と「自分」から視点が外れていく。(どこか自分に似た)他者を見つめる中でふと、あの頃探していた「自分」の断片が見つかる。そんなものだ。

現代における「自分探し」の最短距離は、「推しへの没入」だ。対象となる推しに没入することで、しばし自分を忘れる。そして純粋に人間の真善美の世界に触れる。ふとスポットライトが落ちた瞬間、自分の中の純粋な「自分」だけが残っている。

アイドル=偶像をファン=同志との熱狂とともに陶酔的に推すという行為は、多分に宗教的である。現に推し活には布教、お布施、在家、巡礼、祭壇など宗教用語が直喩的に当てはめられる。いわば推し活は、宗教行為をカジュアルダウンしたものともいえる。

同じ「宗派」を信じる仲間との濃密な体験的共有

推し活における没入体験は、アイドルと自分という1対1だけではない。そこには同じ「宗派」を信じる多くの仲間がいる。巫女の舞のような踊りに合わせて、共にサイリウムと名付けられたライトセーバーをぶん回しながら、闇の中で「何か」を打ち破る。

複数個人が同一目的で集結すると、個人と集団の境界が曖昧になる。音楽ライブの反復的なリズムは情動的な同期を促し、個人の意識を超える強烈な一体感が生まれる。社会学者のデュルケームが定義する「集合的沸騰(collective effervescence)」が起こるメカニズムだ。

ここでいうアイドルは疑似恋愛の対象ではなく巫女である。調査でも、疑似恋愛の相手と考える人は5%しか存在せず、61%が自己肯定感を高めてくれるコンテンツと認識している。また別の調査ではビジュアル重視も7%で、それよりも圧倒的なパフォーマンス(30%)を求める。

推し活の先に「自分」が見つかるメカニズム

コンサートという儀式を通じて、現代人は「自分探し」ではついぞ見つけられなかった「自分」に出会える。同じ宗派を推すファン仲間という内集団への帰属意識が自己評価・自尊心を下支えしてくれるのだ(タジフェルの社会的アイデンティティ理論)。

また会場でせっせとグッズを買い、それを「さっそく装備」する。SNSでも推しについての持論を熱く展開する。そのような自分の外部行動を事後的に観察することで、内面の不確かさは徐々に新たなビリーフで塗り固められていく(ベムの自己知覚理論)。

推し消費の「キャンバス」となる商品戦略

コロナ禍でライブなどのオフラインイベントが制限された時期に生まれたトレンドが、自宅でできる「創作推し活」だ。既存のグッズを推しのメンバーカラーを基調とした自分色に染め上げる再現消費は、自分の推しへの愛を表現する方法として注目されている。

意外なプレイヤーではお仏壇のはせがわ。アクスタを厳かに飾れる「推し壇」が「推しを美しく飾りたい・自己表現したい」というペイン(悩み)に真摯に向き合い、インフラ(=仏壇)を提供することで大ヒット。

またタワーレコードは銀テープフォルダや推し色ポーチなど400種類以上の推し活グッズを提供。これらの共通項としては「完成品を売るな。余白(キャンバス)を売れ」。DIY精神を引き出す自己表現のキャンバスとなれる企業が支持される。

 

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