「あえて〇〇しない」リアリティ表現。生活実感としての共感を生むカジュアルダウンの作法

デジタル技術であらゆる描写が可能になったからこそ、逆に「あえて〇〇しない」リアリティ表現こそが先端の表現場になっている。あえて画質を落としたり、あえて作りこまなかったり、あえてトンマナを崩してみたり。その無骨さや未完成さが「作り物感」を払拭し、生活実感としての共感が生まれる。

これまでは動画といえばテレビが主だったが、現在はTikTokなどSNS上での素人づくりの動画視聴が増えている。ブランド動画がこれまで通りのノリで作っていたら、ハイスペックすぎて逆に浮いてしまうこともある。動画の質もTPOに合わせて、時にはあえてカジュアルダウンするなど調整が必要になっている

「あえて〇〇しない」リアリティ表現例

事例①:あえてクリエイティブコントロールしないクリエイティブディレクション

アートディレクションは品質のコントロールすることと捉えられがちだが、体験価値の訴求という観点から考えるとあえて管理しない方法もある。ホンダVEZELはプロではなく様々なユーザーが撮った「VEZELが連れて行ってくれたそれぞれの景色」を集めて編集。さまざまな「好き」をみせることで多様化に対応

購入者一人ひとりの体験価値をまとめて見える化する、という動画表現においては動画の美しさよりも「体験の多様さ」の方が重要。一言でVEZELユーザーといっても多様な価値観がある中で、それぞれが自分の「好き」を満喫している様子をあえてクリエイティブコントロールしないディレクションで描いた。

事例②:グレードダウンによるリアル表現

日常接する動画がテレビだけだった時代ならともかく、今はスマホ動画も含めて相対化される。すると作り込まれたCMの画質が「浮いて」観えるためリアリティが伝わらない。そこでキリンのRTD「花よい」はフィルムカメラで、タレントの実際の友人との宅飲みシーンを撮ることで臨場感を演出している。

事例③:安いフィルムカメラの配布で「学生の空気」を収集

CXは現場での体験価値という視点だけではなく、平面クリエイティブのエモい素材開発に活用するという方法もある。帝京大学は学生にフィルムカメラを300個配って「リアルな日常風景」を集めてコラージュした。まずインナーで盛り上げつつ素材を作り、シズル感ある表現でアウターに訴求するという方法。

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