追憶の下北沢 | 第一回 「さよならビーグル」

昔、NHK教育で「アルフ」というアメリカのホームコメディドラマが放映されていた。所ジョージがエイリアンのアルフ役を絶妙な吹き替えで演じていたので、好きだったという人も多いだろう。アルフがいるせいでタナー家はしなくてもいい苦労や心配事に巻き込まれる。ガレージを破壊されたりして出費もすごい。ただでさえ神経質で気の弱い夫ウィリーは、しかしアルフの一番の保護者であり理解者でもある。

今思えば、このエイリアンであるアルフという生き物は、犬そのものだ。台所を漁ってドカ食いするし、たまに大脱走するし、隙をみてはネコを食べようとする。我が家も昔からビーグル犬を飼っていたが、家族との思い出の大部分は犬が何かをやらかしたことにまつわるものだ。しかし、エイリアンである犬がいることで、家族に物語が持ち込まれることもまた確かなのだ。

柄本さんちのブサカワ犬

下北沢に14年間住んだが、無類の散歩好きなもので、名物住人である柄本明さんとは100回以上は出くわしただろう。恐らく僕と柄本さんと浅井慎平さんはシモキタ三大徘徊人間である(当社調べ)。昔は奥さんとよく散歩していたが、奥さんが亡くなってからは犬を連れて歩くようになった。これが柄本さんに負けず劣らず個性派俳優。ブサカワの秋田犬なのだが、限りなくブサ寄りである

北沢緑道ですれ違う時は、ブサカワ犬が目に入ると「あ、柄本さんだな」とわかる。半沢直樹2のラスボス役で毎週放映されている間も、柄本さんは例のヨレヨレのジャージで、秋田犬はブサブサ感まるだしでいつもと変わらず散歩していた。妻に先立たれたオジサンが犬と連れだって散歩をする。その背中を見ていると、色々と人生について考えてしまう。

老ビーグルを連れたオジサン

下北沢は割とビーグル好きの多い街だったように思う。散歩の途中で様々なビーグルとすれ違いながら、時には追いかけながら(真っすぐ歩かないのですぐに追い抜いてしまうが)考え事をするのは、非常にいい気分転換になって大好きだった。公共の福祉に寄与しているので、街でビーグルを散歩する人には税制優遇をすべきだと常々主張していたくらいである。

コロナ禍で在宅ワークとなり、毎日下北沢の緑道を散歩していた頃、よく白っちゃけた老犬のビーグルを連れたオジサンとすれ違った。しつこく電柱の下を嗅ぎまわるビーグルを急かすこともなくじっと待つ。何か心の中で会話をしているように、じっと犬を見つめている。仕事で追い詰められてしんどい時も、この老ビーグルを見ればココロがほっこりした。下北沢を離れる日、ちょうど走り去る二人を見かけた。「お元気で」の想いを込めて、後姿をカメラに収めた。

下北沢_ビーグル犬
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