連載小説 | 止まり木ハミングバード ~第二話「帽子の女」

~前回までのあらすじ~
小さな広告代理店に勤める僕(28)。入社以来担当クライアントも変わらず、週末地元のBarで朝までウダウダと酒を飲む以外はこれといって趣味もなく、変化のない毎日を送っていた。

◆◆◆

休日の茶沢通りは自動車の乗り入れが制限され、歩く人のための広場になる。二日酔いのアタマを抱えながら、とりあえず何か腹に入れようと外に出た僕は、チャンポン屋あたりをぼんやりと目指して歩いていた。

三茶というだけあって、行き交う人々を見ていれば退屈することはない。バカっぽい兎マークのジーンズをはいたオニーサンや、近鉄バファローズの野球帽をかぶったオネーサン。緑道の花壇に腰かけてひとりブツブツ文句をいってるオジサンもいる。混沌だ。混沌の街を歩くのはそれだけで楽しい。いつも同じ街並みでも、道ゆく人が変われば毎回印象が変わる。

「オイ、そこの浮かない顔したキミ!」

驚いて振り返ると、さっきの近鉄バファローズである。それは通天閣あたりでチャリンコ乗ってるおっちゃんのアタマの上に載ってるものであって、三茶の女の子が被っているとキョーレツな違和感がある。その「キョーレツな違和感」が今僕を呼び止めているのだ。

「何か用でしょうか?」

「何か用って、それがひさしぶりに東京で同級生に会った時に言うセリフ?」

混沌である。しかしバファローズキャップに目がいって気づかなかったが、たしかにこの「感じ」には心当たりがある。ほとんど話したことはないが、たしか同じクラスにはなったこともあるはずだ。それにしてもこの「圧」である。野茂が目の前で大きく振りかぶっているようにも見えるその猛牛キャップは、つかつかとこちらに近づいてきた。

 

 

(つづく)←ウソ

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